モナコGP

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  • 伝統のグランプリ開催で動くマネー

モナコ、そのたぐいまれな引力

By Christian Sylt and Caroline Reid / Me
2010年5月14日
さまざまな意味で独特のモナコ © Getty Images
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F1は、レースを開催し続けることが大変難しいことで有名なスポーツだ。視聴者の数は加速度的に6億人以上に膨れ上がり、同時にレースを主催するための平均費用も年間3,120万ドル(約28億8,400万円)に跳ね上がった。こうした上昇は新興市場、シンガポールや中国がカレンダー入りのために高い金額を支払い、スポーツを観光促進の基盤にしようとしているためである。彼らがその金額を工面できるのは、政府がこのマーケティング戦略を支持しているからだ。1ペニーも見逃さないのはスポーツの権利所有者、F1グループで、彼らはコースサイド広告、テレビ放映権やレースでの企業の接待費に至るまで、すべての収益を受け取っている。唯一これに当てはまらないレースがある。そこではF1が開催地にもたらす利益より、開催地がF1にもたらす利益の方が多いといわれる――モナコだ。

F1の中で最も金額的価値の高い場所を決めるチャンピオンシップがあれば、間違いなくモナコGPの優勝だろう。レース主催者の『Automobile Club de Monaco(モナコ自動車クラブ/ACM)』はごく少数のサーキット運営者だけで構成され、彼らがコースサイド広告の収益をすべて手にしている。これだけでも2008年は合計1,630万ドル(約15億円)に上った。モナコはまた、開催費を払うことなくF1を主催する唯一のサーキットだ。開催費の平均は今では年間2,800万ドル(約25億8,900万円)となっているので、十分大きな節約だ。

これらの特権は、1929年に始まり、F1世界選手権のカレンダーに記される前からレースが行われていたモナコの歴史があるからこそだ。インディ500、ル・マン24時間と並び、世界3大自動車レースの1つに数えられる。同じようなステータスを持つサーキットはイタリアGPのホーム、モンツァだけであり、ここではほかのどこよりも多くF1レースが開催されている。このためモンツァもレース開催費は大幅に免除されているが、モナコのように無料とはいかない。小さな公国の堅実な財政基盤を元に開催されている市街地レースだが、最大の利益をもたらしているのはコースサイド広告である。

「広告は、グランドスタンドのチケット売り上げと並び、イベントの帳尻を合わせ、出費を埋め合わせる収益の1つだ」とACM会長のミシェル・ボエリ氏は述べ、「他のサーキットではこの部分の運営を委託するところが多いのは事実だが、モナコの場合はそうではない」と言う。利益があるということだ。

"公国のイメージ、そして地元ビジネスにとって、1年のうちで最大のピークを迎える瞬間だ"

「グランプリはモナコで開かれるスポーツイベントの中で最もよく知られている。一番多く放映されているからね」とボエリ氏。「900時間のライブ放送で10億2,000万人の視聴者がいる。公国のイメージと地元ビジネスにとって、1年のうちで最大のピークを迎える瞬間の1つだよ」

モンテカルロのサーキットとしての収容能力は全開催地最少であり、3万7,000人(グランドスタンド2万2,000人、自由席1万5,000人)しか入らない。しかしほかのサーキットと違ってチケットを持たない観戦者の数が飛躍的に多い。「4日間のイベント中、グランドスタンド、サーキット周辺の建物のバルコニー、港のボートからの観戦者はおよそ20万人と見積もられている」とボエリ氏は言う。

またこうも付け加えた。「もちろん日曜日がピークデーだ。文字通り、町があふれかえる。普段は住民3万人の公国に推定10万人の人々が滞在するんだ」彼らは面積1.95平方kmの小さな国を埋め尽くすが、増援が必要なのは国境ではなく道路の方だ。

町をレースサーキットに変えることはそう簡単な仕事ではない。「営業を最適化するために建設の待ち時間を削減した。建設に6週間、解体に2週間となっている」と語るボエリ氏。およそ1,100トンのグランドスタンド、900トンのピットガレージと33kmのバリアが使われ、50人のエンジニアによる常設チームが設営を担当する。

これらの高い諸経費は、モナコが開催費を負担する必要がなく、コースサイド広告の収益をすべて手にし、下は194ドル(約1万8,000円)から最高958ドル(約8万9,000円)までのチケット収益があるとしても、ボエリ氏曰く「グランプリの売り上げは支出より少ない」という。ACMはグランプリ開催のために700万ドル(約6億4,700万円)の助成金を国から受け取っており、これを含めてレースの総予算は3,500万ドル(約32億3,600万円)ほどだと彼は説明する。

だがACMの助成金はカレンダー上の最高額とはほど遠い。最も高いのはもう一つのF1市街地サーキット、シンガポールの6,000万ドル(約55億4,800万円)だ。しかし、モナコが他に類のない魅力を持っていることで、国が投じる700万ドルは非常に高い見返りを伴うことになる。F1業界をモニターする『Formula Money(フォーミュラ・マネー)』の試算によると、レースをめぐるモナコの総売上は1億2,000万ドル(約111億円)相当と考えられ、隣接するフランスのマントン、イタリアのベンティミリアも年間1,200万ドル(約11億1,000万円)を得るという。ボエリ氏は国の助成金の大部分をまかなっているのは付加価値税だと言い、レースの週末に転がり込んでくるわけではないと述べる。

ただのF1レースとは違うのがモナコ © Getty Images
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観光客はグランプリ終了後も長く同地を訪れるとボエリ氏は言い、影響が感じられるのは「グランプリウイークエンドだけではなく、1年中だ」と述べた。「さまざまな会議、セミナー、発表会を目的に観光者や専門家が来てくれている。経済計画に与える影響は間違いなくポジティブだ。それに加えて他のイベントのサポートも行っている。ラリー・モンテカルロや多くのヒストリックイベントといったね」

モナコにとっては宣伝の理想的なパッケージであり、ボエリ氏は控えめにこう表現した。「われわれのマーケティング計画はなかなかバランスが取れている」しかし、こうも付け加えている。「にもかかわらず、決して何かをあてにしてはいない」彼の慎重さは何ら驚きではない。モナコのようにギャンブルが身近な国で確かなものなどないからだ。それでも、ことモータースポーツでお金をもうけようとするなら、モナコGPほど安全な賭けはない。

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