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さまざまな思いが行き交うミックのF1デビュー

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2019年4月3日 « グロージャンにペナルティポイント1点 | F1がウィル・スミスのスタジオとタッグ »
© Lars Baron/Getty Images
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デビューテストでこれほど注目されるドライバーというのもミック・シューマッハ以外にそういないだろう。2日(火)のバーレーンはまさに彼一色の状態だった。通常、F1デビューを待つ新人ドライバーといえば、中団かバックマーカーチームでスタートするケースが大半だ。そうしてまずは大きな期待を背負うことなく、エンジニアリングのレベルやマシンの圧倒的スピード、メディアの待遇に慣れていくのが普通だ。しかし、7度のワールドチャンピオン、ミハエル・シューマッハの息子ともなるとそうはいかない。彼がどのマシンをドライブしようと、全ての目が彼に注がれるのは分かり切ったことだった。開いたバイザーからのぞくまなざしまで全て、周囲はその一挙手一投足に伝説的な父の面影を探し求める。公開されるデータに関係なく、彼のタイムは細かく分析され、少しでもミスを犯そうものなら数分後にはインターネットで拡散されてしまう。それならばいっそ、グリッド最大のチームから大々的にデビューするという手もありではないか? その偉大なる家名と同義のチームでドライブすればいい。フェラーリデビュー? 問題ない。

「すごくいいエモーションを感じることができたよ」とチームと1時間のミーティングを終えたミックは火曜日の夕方に語った。「早くも自分の家にいるみたいだ。初めてのラップを走り、みんながクルマに取り組み、僕と一緒に仕事をしてくれるのを見て感動した。すごく快適でアットホームな感じだ」

単なるテストとはいえ、チームとドライバーの間に並々ならぬ感情が横たわるのは当然だろう。フェラーリガレージにいるメカニックたちの中には2000年代に彼の父のマシンで作業をしていた者もおり、広報係のサビーネ・ケームはミハエル全盛期からずっと彼を担当してきた。今はメルセデスで働く元フェラーリエンジニアがピットウオールまでやってきて、ミックが初めてガレージを出ていく様子を拍手で見送る姿まであった。

母コリーナも駆けつけており、キャッチフェンスの隙間から息子の成長ぶりに目を細めていた。そこにあふれる思いはわれわれには想像もできないものがあるに違いない。わずか5年前、休暇中にミハエルがスキーで重い頭部外傷を負い、一家は悲劇を経験した。その息子が今、父の後ろを走るようにF1を目指し始めている。

火曜日にタイヤテストのためにF1復帰したフェルナンド・アロンソは、2006年にライバルとしてミハエルとタイトルを争った。再び"シューマッハ"と一緒にテストセッションを走ったことについて聞かれ、彼も終始笑顔だった。

「コース上で彼と遭遇することはなかったけど、今朝のスクリーンに"M. Schumacher"と"Alonso"の名前があるのを見た時はうれしかったね。最初は2つ並んでいたんだよ」と彼は述べた。「最初に見た瞬間は、マイケル(ミハエル)なのかミックなのか分からなくなる不思議な気分だった」

それにしても、初テストでこれだけの注目とプレッシャーを浴びて、ミックは自分の仕事に集中できたのだろうか?

「簡単さ!」と返事は満面の笑みであっさり返ってきた。この自信と落ち着きは大したものだ。

雨による中断とソフトタイヤ

ミックの午前の走行はまず順応のために33周を走ったが、その後、珍しい風雨のために全10チームが足止めを強いられてしまった。まさか砂漠で雨が降るとは誰も予想していなかったため、ピレリにウエットやインターミディエイトタイヤを発注したチームは1つもいなかった。土砂降りの中で刻々と時間は過ぎていき、セッションが残り90分というところでようやく、湿った路面の上に沈みかけた太陽が雲の間から顔をのぞかせた。

縁石やターン2のエイペックスにまだダンプパッチが残る路面状況でミックは再びコースイン。彼の課題はタイヤとセットアップを完了することであり、その後ピレリの最も柔らかいタイヤを装着してアタックを開始した。風雨が来る前の彼のベンチマークタイムは1分32秒552だったが、すぐに2秒のラップタイムを稼ぎ、1分30秒台前半に入る。しかし、初めてのF1マシンということもあり、多少のエラーの余地を残していたという。

「僕はいつも言っているんだけど、(クルマへの)リスペクトを忘れちゃいけない」と彼は述べた。「リスペクトを失うと、危険に足を踏み入れることになる。今日はクルマに対し、大きなリスペクトを払った。だって1,000馬力以上でコーナーを高速で回るんだよ! そりゃ、リスペクトしなきゃね」

F1でデビューするドライバーが必ず驚くのはブレーキングだ。現在ミックがレースをしているF2からのステップアップはとてつもなく大きい。突然、これまでより早いスピードでコーナーに入っていくことになるが、制動距離は極端に短い。たった56周では限界点など見つけられないだろう。

「ブレーキングはすごく・・・リミットを見つけるのがすごく難しかった。コーナーに向けていくらでも深くできるんだ」と彼は述べた。「ターン1の50m表示のところでブレーキングできるかと思ったんだけど、どう見てもそれは可能じゃない。走るたびにどんどん遅くしていったんだけど、それでもまだ遅らせることができた。だから、まだマージンがあったってことなんだ」

残り15分となったところでミックは1分29秒976まで更新し、タイムシートのトップに立った。他のドライバーたちは燃料を積んでのロングランに集中している者が多かったが、レッドブルのマックス・フェルスタッペンはタイムアタックしている様子だった。共に元F1ドライバーを父に持つ2人は子ども時代に休暇を一緒に過ごしたこともあり、そんな2人がF1の公式テストで一騎打ちを繰り広げた。

フェルスタッペンはミックより1歳年上で、すでに5度のレース勝利を挙げている。こちらはミックより2段階硬いタイヤを履いていたが、4年間のF1経験は絶大だった。セッションが残り5分の段階でフェルスタッペンがクイックラップをまとめ、ミックのベストを0.597秒上回ってみせた。

「誰が見ても、マックスは多くの経験を持っている」とミックは述べた。「彼と比較してこれなら、大満足と言っていいと思う。僕らは自分たちの仕事をしたし、僕はクルマの感触、自信に関してすごくハッピーだ」

正しい文脈に戻すなら、ラップタイムや走行プランは本当に重要ではなかったということだ。これはミックにとって初めてのF1ドライブであり、彼がプッシュしつつも大きなミスなく完走できたということは成功のうちに数えられる。さらに見方を広げれば、これは10年以上前にカートから始まり、最終目的地も定まっていなかった頃から続く長い冒険の次なるステップに過ぎない。

「僕は楽しみ、エンジョイしようと思ってここへ来て、それを110%達成した」とミックは述べた。「この笑顔を見たらすごく楽しかったのが分かるはずだよ。特に最後の数周は良かったな。フルパワーを出して全てがとにかくアメージングだった。完璧なクルマのフィーリングって、アメージングとしか言い表せないよ」

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