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  • 「観戦スポーツとしてのF1は現在限りなくゼロに近い」

スターリング・モス卿が斬る:2010年3月27日

Sir Stirling Moss / Jim 2010年3月28日
現在のF1をバッサリ斬るスターリング・モス卿 © Sutton Images
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『スターリング・モス卿が斬る』第4弾は開幕戦を独自の視点で斬り、オーストラリアGPの展開も予想してくれています。

【スターリング・モス卿 2010年3月26日】

バーレーンGP以上に退屈なものは考えられない。病院で友人のシド・ワトキンス博士とレースを見たが、感動はしなかったと言わなければならない。

懸念はモーターレーシングのファンタスティックなシーズンを経験し損なってしまうかもしれないこと。あれだけ多くの素晴らしいドライバーが競争力のあるマシンに乗っているというのに、実際のところ彼らが互いに競い合うことは不可能に近い。率直に言って、FIAとコンストラクターたちが何とかすべきだと思う。根本的に、ダウンフォースに依存したF1というのを終わらす必要があるだろう。これらのマシンが生み出すダウンフォースの量は顕著だ。私の時代はダウンフォースという言葉さえなかった。自分だろうと他の誰だろうと、一番高くても横Gは1G以下だったと言える。しかし、今はどうだ、コーナーに入れば4Gだというじゃないか。私がドライブした最新のマシンは10年か15年前に乗ったティレルだが、そのパフォーマンスが信じられなかった。時速273.6km前後でコーナーに入り、ノーマルに戻したのだが、空力からのドラッグであれほどスローダウンするとは予想しておらず、そこでもう一度加速しなければならなかったのだ。もちろん、そのティレルだって今日の基準でいけば古いマシンなわけだから、現行マシンなどとんでもないはずだ。

ゆえに、マシンに何でもかんでも加えるよりは取り外すことを考える必要があるのではないだろうか。それから、エレクトロニクスを少なくし、ドライビングの基礎から取り去ることを確実にする必要があるだろう。今はF1レースを見るよりも、素晴らしいインディカーのレースを見る方がマシだ。観戦するにはおもしろさが多いからね。観戦スポーツとしてのF1は現在限りなくゼロに近い。

見るスポーツであるべきなのに、長いことそこから遠ざかっている。

主な問題のひとつにドライバーのインプットが激しく制限されているという点がある。アロンソやベッテル、ハミルトンがチームにいる利点を薄めている。彼らがその力量を発揮するチャンスはごくわずかで、それが本当に残念で仕方ない。ドライバーの腕に頼るように戻すなら、マシンをドライブしづらくする必要がある。だからといって、それが簡単だと言っているのではない。だが、世界のトップドライバー20人を集め、ラップタイムの差がトップから最下位まで1秒以下になる可能性を考えると、何かが間違っているはずだ。議論の余地はない。ドライバーの役割がかなり削られている。彼らがブレーキをロックしたり、ホイールスピンをしたりする場面を見るのはかなりまれだろう。彼らはまっとうなギアチェンジさえしていない。これは悪いニュースだよ。

バーレーンのような近代的なサーキットも役には立たん。見た目は美しいが、実のところかなり退屈なレースになる。悲しいかな、今のF1ではほとんどのサーキットがそうだと言わざるを得ない。今のサーキットと私がレースをしたサーキットを比べた場合、私の意見としてはモナコだけが今でもおもしろい、まあ、そんなところだ。安全性に焦点をあてることは当然だと思う。それがモーターレーシングを破滅させ、去勢してきたからね。だが、仕方がない、世の中そういうものだ。

自身の活躍した時代と現代とを比較するモス卿 © Getty Images
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オーバーテイク用のショートカットを導入するとか、リバースグリッドにするとか、そういうのはどうだろう。確かに小道具ではあるが、レースをよりエキサイティングにするはずだ。経済的なF1にしようということに異を唱えるつもりはない。しかし、F1は私が思うに、もはやかつて持っていた威厳やあるべき威厳がない。空力に取り組むなど、より賢明なソリューションを見いだして欲しいとは思うが、その問題を回避できないのであれば何もしないより、そういう小道具を使う方がいいと考えている。そう言わなければならないことは残念だが、今は深刻につまらない。

F1の問題は置いておくとして、数チームの間でいくつか興味深いバトルがある。ひとつ取り上げると、マクラーレンドライバーのジェンソン・バトンとルイス・ハミルトンの競争が特におもしろいことが分かった。ルイスはバーレーンで総合的にジェンソンを上回り、確かにシーズンはまだ先が長いが、彼らの才能を公正に反映していたと思う。ジェンソンは偉大なワールドチャンピオンであり、ものすごい仕事を成し遂げたが、ルイスほどの才能を持っているとは思わない。私はルイスの方がもっとコンペティターでありファイターだと思う。タイヤをいたわるという点ではジェンソンに力があるが、今はブリヂストン(タイヤ)がとりわけ長持ちすると分かったので、これは彼にとって不利になる。それに、もしショーを改善する目的で議論されている2回のピットストップが強制されれば、彼にとってはさらに不利になるだろう。

今週末のレースについては、もっとエキサイティングな展開を予想していいと思う。まずスポーツの盛んなオーストラリアだということ。次にサーキットが見るによりおもしろい。サーキットというよりは公道に近いからね。だから、必ず競争が増すレースとは言えなくとも、もっとおもしろいレースは期待していいと思う。初戦からまだ2週間だ。誰かが浮上してくるとも思えないし、自分たちが"おおキリストよ、彼はどこから来たのだ"と言っているところは想像できないので、上位のオーダーはそのままだろうと思う。何があろうと、私はレースを見るし、次のコラムでまた私の見解をお伝えしよう。

【モス卿へのご意見をお寄せください。辛口コメントでも構わないという方! お待ちしています】

© ESPN Sports Media Ltd.
Sir Stirling Moss Close
Sir Stirling Moss OBE - a British motor racing legend, recognised as one of the world's greatest racing drivers. He won an astonishing 212 of the 529 races he entered during his 15-year career, competing in just about every class of motor racing, including 16 Formula One races. His victory in the 1961 Monaco Grand Prix is one of the most famous races in F1 history. Stirling's vast experience comes from being a racer and from knowing those who compete in and run the sport now. He never shies away from commenting on all aspects of the sport he loves. Gallery of his career